『Qアノンの正体 / Q: INTO THE STORM』1つの匿名掲示板から議事堂襲撃事件まで
BRUTUSのドキュメンタリー特集に影響され、早速書籍に掲載されていたドキュメンタリーを見ることにしました。
一作目は『Qアノンの正体 / Q: INTO THE STORM』。
すごく変なチョイスをしたのは私も重々承知しております。
陰謀論集団・Qアノンとは、アメリカの匿名掲示板に現れた「Q」と呼ばれる人物とその人物を取り巻く人々の総称です。
私は彼らをやんわりと知っていました。
平石アナのファシリが神がかっていることでおなじみのアベプラで「陰謀論」特集が組まれておりまして、そこで日本に住むQアノンのお話を聞きました。
特定の政治家やハリウッドで裕福な暮らしをしている方々が、世界を支配しているあーだこーだ、と語っていたような気がします。
この時点では不透明な都市伝説を吹聴する人物というか、組織だと認識していたのですが、このドキュメンタリーを観てその全貌が明らかになりました。
監督のカレン・ホバック氏は、「Q」が意味深な投稿を繰り返す「8Chan」という掲示板の創設者、サーバーの主、出資している人物などに目をつけて徹底的に密着していきます。
取材を進めていくと、不透明で神のような存在であった「Q」の輪郭がどんどんはっきりしていきます。
インターネットというかつて無いほどの文明を手に入れた人間が進む道の1つを示した映像です。アメリカが世界に誇れる「言論の自由」という大きな力をキーにして、一般庶民を大きな渦の中に巻き込んでいく「Q」。
それは政権をも巻き込み、最後には今年の初めに起こった「アメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件」にまで増大していきます。その台風の目の中でカメラを回し続けるといった感じ。
陰謀論や都市伝説と言ったような、最終的に正しさではなく、信じるか信じないかみたいな論理的ではない方向でしか話すことが出来ないものの正体を突き詰めたドキュメンタリーで気持ちよかったです。(「Q」と思われる人物は最後まで否定していましたが……)
一般庶民や、個人、政治家などが「Q」という対象に様々な思惑を重ねていった結果こんなことになってしまうとは。1つの大きなムーブメントとの行く末を楽しめる作品になっています。
微ネタバレ注意
ちょっとメモしておきたい所を。
この間ドキュメンタリーについての授業を大学で受けていたので、海外の映像にちょっと触れたんですけど、それと同様にくすっと笑ってしまう演出が良かったです。監督が重要人物たちに愚痴を言いながらも取材に追われているのも好きでした。
8Chanの創設者のフレドリックブレンナンと管理人と出資者のロンワトキンスとジム・ワトキンスが訴訟をすることになるんですけどそこもたまらなく面白かったです。
おもしろ展開の連続で、現実は小説よりもとはよく言ったものです。あとはアメリカ人の国民性というか、「熱狂的」な部分が顕になる作品でもありました。Qを信じる人々の様子もそうですし、大きな力に陶酔していく”彼”の姿は鳥肌モノです。
つくづく人間はちょっと賢くなっちゃったただの動物なんだなと思います。
1つ注文をつけたいのは、もう少しQに全然関係ないアメリカ人の温度感が知りたかったです。現地で実際に生活していないので、Qアノンの信者がどういう存在であったのか気になりました。こっちが海外の作品見てるので何か言える立場ではありませんが。
監督や作品の立場的には中立で良かったのではないでしょうか。もはやアノンとか関係なく、フレドリックブレンナンとワトキンス親子の対立がメインになっていたり、中盤からは陰謀論やQアノンは単なる事象にしか過ぎず、言論の自由やインターネットという空間、影響力や妬みなどなど色々なものを巻き込んでの映像になっていました。
超面白かったのでおすすめです。